三条通り 『なか卯』

金曜日の夜、僕は三条通にいた。

金曜は決まって、街に出て映画を、それもレイトショーを観に行くのだ。

もう一日待てば休日だし、ゆっくり余裕を持っていけばいいのにと思う方もいるだろう。僕は金曜日のレイトショーが一番好きなのだ。

華金といえど賑やかなのは居酒屋などが並ぶ大通りで、一本通りに入ればどこか疲れたようなサラリーマンたちで溢れかえる。映画館の、しかもレイトショーとなればなおさら、気だるげな雰囲気が館内を包むのだ。

そんな中で見る映画が僕は好きだ。スカスカの小規模シアターで誰に気兼ねすることなく羽を伸ばし、前に座る寝落ちしたおじさんのシートに足を乗せて観る映画に、僕はたまらなく多幸感を感じるのだ。

映画も終わり、館内を後にする。余韻に冷めやまぬ頭にあたる夜風が心地いい。まだ終電には時間がある。遅めの夕食を求め、僕は三条通りを西に進んだ。駅へは遠回りになってしまうのだが、人通りの少なくなった京都の裏通りは賑やかな時とはまた違った表情を見せる。

そして何よりこの通りには『なか卯』がある。レイトショー終わりから終電までの時間に開いている数少ない店だ。店内は、夜勤のワンオペバイトとカウンターに2人。注文する商品は決まっている。親子丼490円にみそ汁100円とつけもの70円、無駄のない布陣だ。切れかけの電灯がポツポツ点滅している厨房から商品が出てくる。ワンコインにしてはそれなりのクオリティの親子丼を、三切れの薄い油揚げが入った味噌汁で流し込む。コンビニ弁当が普段食の僕には、この一汁一菜が身にしみる。

僕は店を後にし、また三条通りを西に歩を進める。満足感を胸に地下鉄へと消える。

ANTHOLOGY KYOTO

京都の各所で様々なライター達が体験した体験記です。 これから京都を好きになる人、楽しもうと思っている人にとって、 この体験記が少しでも役立てればと思っています。

0コメント

  • 1000 / 1000